弱い者ほど相手を許すことができない。許すということは強さの証。これはインド独立の父と称されるマハトマ・ガンジーが残した言葉です。私はこの一文に出会ってから、許しというものの意味が少しずつ変わっていきました。それまで私は、許すというのは心の広い人がやさしさで行うことだと思っていました。けれど、ガンジーは強さの証だと言い切ったのです。
人は、自分を裏切った相手や、不利益を与えてきた相手、深く傷つけてきた相手を、なかなか許すことができません。どうしてもその人を憎んでしまう。心のどこかで、相手の不幸を願ってしまうこともあります。それは特別に冷たい人だからではありません。誰の中にもある、ごく自然な反応です。ただ、その反応の奥にあるものを見つめると、そこにあるのは弱さなのだと私は思うようになりました。
許せないことは、なぜ弱さなのか
許せない時、私たちは相手に心を握られています。何年も前の出来事を思い出しては胸が熱くなり、夜中に目が覚めてはあの人の顔が浮かぶ。これは、自分の心の手綱を相手に渡してしまっている状態です。相手はもう自分の前にいないのに、自分の中で何度もその人を生かし続け、何度も傷つけられ直している。憎しみは相手を縛る鎖のように見えて、実は自分の足首にも同じ鎖が巻きついているのです。
弱さというのは、力がないことではありません。自分の心を自分で扱えない状態のことです。憎しみに飲み込まれている間、私たちは自分の人生の主人でいられません。だからこそ、その鎖を自分の意志でほどける人を、ガンジーは強い人と呼んだのだと思います。許しとは、相手に屈することではなく、相手に握られた手綱を、自分の手へ取り戻す行いなのです。
許しは、相手のためではなく自分のために
許すというと、相手を救ってあげる行為のように聞こえます。けれど私は、許しの一番の受け取り手は自分自身だと感じています。相手を許したからといって、相手が反省するとは限りません。相手は何も知らないまま、平気で暮らしているかもしれない。それでも、許すことで軽くなるのは自分の心です。
憎しみを抱え続けるのは、重い荷物を一日中背負って歩くようなものです。その荷物の重さに気づかないまま、肩が凝り、足が重くなり、笑顔が減っていく。許しは、その荷物をそっと地面に下ろす行為です。相手のためにしてあげるのではなく、これ以上自分がすり減らないために、自分のためにそうするのです。そう考えると、許しはずいぶん身近で、現実的なものになります。
心の中で「許します」と唱える
正直に書きます。私もまた弱い人間です。裏切られたり傷つけられたりすると、どうしても相手を憎んでしまうことがあります。聖人のように、すべてをすっと水に流せるわけではありません。うらみが胸の中で炎のように燃え上がる夜が、私にも確かにあるのです。
そういう時、私は頭の中で相手に向かって、あなたを許しますと言葉にします。憎んでいる相手の姿を思い浮かべながら、心の中でその一言を出していく。すべてのものと和解できることを願いながら、静かに唱えるのです。最初は形だけかもしれません。口先だけのように感じる日もあります。それでも続けていると、不思議なことに、内側で燃えていた炎が少しずつ鎮まっていきます。完全に消えなくてもいい。火力が弱まるだけで、心はずいぶん呼吸がしやすくなります。
大切なのは、無理に許そうとしないことです。許せない自分を責める必要はありません。今日許せなかったものは、明日でも来年でもいい。許せる範囲を、一センチずつ広げていけば十分です。そして、その範囲が広がるほど、宇宙は私たちに味方してくれます。心が和解へ向かうほど、人生の流れもやわらかくなっていく。私はそう信じています。
今日からできること
一つ、許せない相手の名前を一人だけ思い浮かべてみる。たくさん抱え込まず、まずは一人でいい。その人がいることに気づくだけで、心の整理は始まります。
二つ、心の中で「あなたを許します」と一度だけ唱える。形だけで構いません。声に出さなくてもいい。その一言を出した自分を、静かに認めてあげてください。
三つ、許せない自分を責めないと決める。許せないのは弱さですが、その弱さを抱えた自分まで嫌う必要はありません。弱さを認めることが、強さへの第一歩です。
四つ、憎しみが湧いた夜は、それを荷物として下ろす想像をする。重い荷物を地面に置く場面を思い描くだけで、肩の力がふっと抜けていきます。
五つ、許せる範囲を一センチずつ広げていく。急がなくていい。今日できた小さな和解を一つ数えれば、宇宙は確かにあなたへ味方してくれます。
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