「たとえ明日、世界が滅びようとも私は今日リンゴの木を植える」。短いひとことですが、この言葉に立ち止まったことのある方は多いのではないでしょうか。キリスト教の改革者で、プロテスタントの流れをつくったマルチン・ルターの言葉とされています。ルター自身がこう語ったのか、後の時代に広まった言葉なのか、その由来ははっきりしません。ただ、誰が最初に口にしたかにかかわらず、この一文には人の心を支える力があります。今日は、この言葉に込められたものを、私なりにゆっくりとたどってみたいと思います。
リンゴの木は、植えたその日に実をつけるものではありません。芽が出て、幹が育ち、ようやく実がなるまでには、何年もの歳月がかかります。世界が明日終わるなら、その木が実をつける日は永遠に来ないことになる。見返りという物差しで測れば、これほど無意味に見える行いもないでしょう。それでもなお木を植える。この言葉が私たちの胸を打つのは、まさにそこに理由があるのだと思います。
見返りを期待する心と、その手前にあるもの
私たちは何かを成そうとするとき、知らず知らずのうちにその見返りを数えています。これをすれば誰かに感謝される、自分や家族のためになる、いつか報われる。そうした計算が成り立つあいだは、人は迷わず動けます。けれど、返ってくるものが見えないとき、私たちは急に足を止めてしまう。こんなことをして何になるのか、無駄ではないか。そう問う声が、心の中で大きくなっていきます。
見返りを求めること自体は、決して悪いものではありません。私たちはそうやって暮らしを成り立たせ、家族を養い、明日へつないできました。ただ、見返りという物差ししか持っていないと、その物差しでは測れない大切な行いを、私たちは取りこぼしてしまいます。リンゴの木を植えるルターの姿は、計算が成り立たない場所にも、なお手を動かす理由があることを教えてくれます。それは打算ではなく、希望と呼ぶしかないものです。
無力感に飲まれそうなとき
世の中の出来事を見ていると、ときに胸がふさがれるような気持ちになります。争いのこと、貧しさのこと、傷つけられている人たちのこと。自分ひとりが何かをしたところで、この大きな流れはびくともしないように思えてくる。署名をひとつしても、わずかな寄付をしても、声を上げても、何も変わらないように見える。その無力感は、誠実に世界を見つめている人ほど深く感じます。
けれど、変化というものは、目に見える形ですぐに現れるとはかぎりません。あなたが植えた小さな種は、地中で時間をかけて根を張っています。あなたの優しいひとことが、何年も経ってから誰かの支えになることがある。あなたの行いを見ていた誰かが、その姿に静かに励まされていることがある。実りの場面に立ち会えないからといって、種をまいたことが無駄になるわけではないのです。
それでも今日、木を植える
霊的な見方をするなら、私たちが今日この場でなす行いは、決して消えてなくなりません。たとえ目に見える成果につながらなくても、希望をもってなされた行為は、その人の魂に確かに刻まれていきます。形あるものはいつか失われます。けれど、誰かを思って手を動かしたその心は、形を超えて残っていきます。
だからこそ、明日のために、今日できることをしていきましょう。たとえこの世界が明日終わり、これまでの努力がすべて失われるとしても、希望の種をまく行為そのものに意味があります。実を見られるかどうかではなく、今日リンゴの木を植えたという事実が、あなたの生き方になっていく。大きなことでなくてかまいません。手の届く範囲で、ひとつ、また一つと種をまいていけばよいのです。
今日からできること
一つ、見返りを求めずに、誰かのために小さな行いをしてみる。感謝も評価も期待せず、ただ役に立てばと願って動いてみてください。その身軽さを一度味わうと、世界の見え方が少し変わります。
一つ、無力感を感じたら、その気持ちを否定しない。無力さを覚えるのは、あなたが世界を真剣に見ている証拠です。打ち消そうとせず、そう感じている自分をそのまま受け止めてあげてください。
一つ、結果が見えなくても続けられることを、一つ持つ。植物を育てる、文章を書く、誰かに手紙を出す。実りを急がずに続けられる営みは、希望の種をまく練習になります。
一つ、誰かの小さな善い行いに気づいたら、言葉にして伝える。あなたのその一言が、無力感に沈みかけた人にとっての、地中の根を支える水になります。
一つ、今日できることを、明日に先延ばしにしない。大きな計画でなくてかまいません。今この手で植えられる小さな一本を、まず今日のうちに植えてみてください。
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