「知は力なり」真理を発見する方法 F・ベーコンの帰納法とイドラ説

2021年5月8日土曜日

哲学 名言


「知は力なり」という言葉を聞いたことがあり方もいるでしょう

この言葉は16~17世紀のイギリスの哲学者、フランシス・ベーコンの言葉です

彼は現実的な生活に何の関係もない物事を懸命に議論することの虚しさから離れ、現実に人々の幸せに寄与する知識こそ大事だと考えました

これを端的にあらわしたのが「知は力なり」という言葉です

彼の生きた時代はキリスト教が力を持っていました

そのキリスト教では様々な難しい抽象的な考えの議論が交わされていて、そのちょっとした解釈の違いによっては、異端として火あぶりにされる事もあったのです

たとえばキリスト教には三位一体という説があります

これは天なる父と、その子であるイエス、そして聖霊とは一体であるとする説です

そもそもキリスト教は一神教とされ、神様は一人とされているのに、父と子と聖霊が出てきて、それらは一体だといわれたら混乱してしまうのではないでしょうか

クリスチャンではない人たちからすれば分かりずらいものです

それを三位一体とは三つの人格ではなくて、唯一神のみがあるわけですが、父と子と聖霊というのはその唯一の神が別な姿として現れたのだとする解釈があります

つまりあなたは一人なのですが、子どもから見ればあなたは母親であり、夫から見れば妻であり、親から見れば子どもという事です

同じあなたであっても、そのように三つに見えてきます

これが三位一体だという解釈がありますが、それは異端として排除されます(サベリウス主義)

イエスの人性を否定するからだそうです

こうした議論は庶民の生活には何も関係がないはずです

ややこしくてどうでもいいと思う事でも、異端とされたら命取りとなっていまします

ベーコンはそうした非生産的な議論は役に立たないとして、もっと人々の役に立ち、世の中を改善していく知識であり真理を求めたわけです

当時は合理論と経験論という真理の探究の仕方に大きく二つの方法に分かれていました

先日紹介しましたデカルトは欧州大陸の人ですので、大陸合理論とも呼ばれ、一方ベーコンの住むイギリスでは、経験論が中心でした

この合理論と経験論を、ベーコンは虫の蜘蛛とハチに例えています

蜘蛛というのは自分の体から糸を出して、蜘蛛の巣をはっていきます

そのように合理論というのは、頭の中から理論を汲みだしていって、論理の体形を張っていきます

デカルトも「われ思う、ゆえにわれあり」という命題をもとにして、どんどん論理の展開をしていきます

こうした方法は、一つ間違えば論理の飛躍が起こって、間違いを犯してしまう事があります

よく学者さんなども、頭でっかちになって、「理屈から言えばこうなるはずだ」と決めつけたり、「そんなことはあるはずがない」とはなから否定する事があります

しかし、理屈で考えたことが現実に合わないことも多くて、頭で考えたことが間違う事はよくあるのです

当初の予想ではこうなるはずだと思っても、実際に実験して見たら違ったという事はよくあります

ですので、合理論にも弱点があるわけです

一方で経験論というのは、経験した事柄を、アリのようにただ集めてきては、必要な時に使うだけです

アリが餌を巣に集めてくるように、経験を集めてそのまま置いておくだけというわけです

これについてベーコンはアリや蜘蛛のようでなく、蜜蜂のようでなくてはならないと説きます

蜜蜂とうのはアリや蜘蛛と違って、その中間的なやり方をします

外へ出て餌を拾ってくるのはアリと一緒ですが、それをただ集めるのではなく、蜜に加工して蓄えるのです

そのように単に経験を集めるのではなく、きちんと加工していかなくてはならないと言います

つまり科学的な実験手法をもちいて真理を求めようとしています

これを難しい言葉で帰納法と言います

帰納法というのは、自然界を観察したり実験を通して、いろんな経験やデータを集め、それを分析したり整理することで一般法則を導き出すというものです

たとえば先日のパーレートの法則についても、お店などで売り上げを日々記載していって、調査していくと、売り上げの八割は、二割の顧客が生み出しているものだったと分かったりします

このようにまず売り上げをデータとして集め、それを分析して、2割の顧客が売り上げの8割を占めていた事を知ります

さらに他のお店でも知らべてみると、同じように8割:2割の比率が一緒だったとしましょう

するとこの8割:2割の法則は、一般法則として通じるのではないかと導き出されるわけです

そのように観察したりデータを収集し、それを分析し考察してみて法則を見つけ出す手法を帰納法と言います

現在の科学手法にもこの帰納法が使われていると言えるでしょう

ですがベーコンは帰納法の弱点も指摘しています

それは人間は事実を歪めて見てしまう事があるからです

心の鏡に外界が映りますが、その鏡が曇ってしまったら、正しく世界を映し出すことが出来ません

その曇りの事をベーコンはイドラと呼んでいます

イドラは人間が持つ先入観です

ベーコンは四つのイドラがあると説いています

種族のイドラ、洞窟のイドラ、市場のイドラ、劇場のイドラです

1,種族のイドラ(自然性質によるイドラ)

人間という種族、人間であるがゆえに犯す誤りを言います

たとえば人間の感覚は必ずしも外界をそのまま写し取っているのではなくて、様々な錯覚や感覚の間違いを持っている事はご存知でしょう


上の図は有名な錯覚画で、上の線の方が私たちには長く見えますが、実際には上下とも同じ長さです

そのように人間の感覚には見誤りがどうしても生じます

人間であるがゆえに生じる誤りを種族のイドラと呼びます

2,洞窟のイドラ(個人経験によるイドラ)

私たちは個人の経験をもとに物事を判断してしまいがちであり、それはまるで洞窟の中のような狭い場所から世界を見るような誤りです

ひとは生まれた国や家庭によっても、考え方や価値観には大きな違いが出てきます

「羹に懲りて膾を吹く」という諺もあるように、個人の経験が、その後の物事の判断に影響していきます

個人の経験や性質、習慣や教育などで生まれてくる誤りを言います


3,市場のイドラ(伝聞によるイドラ)

人と人とが交わす言葉から発生する誤りです

社会生活や他者との交流や会話から生じる事から、市場のイドラと言います

よく伝言ゲームをしていくと、次第にもとに言った話とは違ったものになっていくように、人々の伝聞には間違いも多く含まれます

私たちの会話の中には、ドラマやアニメなどの登場人物の話しが出てきますが、作者が生み出したものであったり、架空の存在であることがあります

そうしたものも言葉の上ではあたかも実在するかのように語られますが、真に実在するものとは言えません


4,劇場のイドラ(権威によるイドラ)

昔ながらの考えや伝統をそのまま信じ、無批判に受け入れる事で生じる見誤りです

劇場で演じられる物語は架空の話しですが、それに魅入ると、あたかも現実であるように没頭する幻惑の事です

たとえば中世ヨーロッパではキリスト教の権威が強かったですが、教会がいった天動説が正しいと信じらていました

そのため地動説を唱えたコペルニクスやガリレオなどの説を否定し、そのために真実を見誤ってしまいます

このように権威ある説を妄信するあまり、人は真実を見誤ってしまう事があるのです

ベーコンはこうしたイドラによる誤りをはじめから理解し、その失敗を犯さないように注意しながら観察と実験を繰り返していけば、真理に達することが出来るとしました

先にも言いましたように、現代の科学でもこうした考えが強いでしょう

間違いを排除して、観察と実験を繰り返していく事で、真理に到達すると考えます

たしかにそれは、世界の法則を発見するのに役立ちますが、真理に到達するのはそれだけではありません

インスピレーションという形で、真理が降りてくる事もあるのです

霊的な啓示によって人々を導く言葉が降りてくると言う現象は古来からあります

宗教を興した多くの宗教家がそうでしょうし、スピリチュアリストとして、霊からの通信を告げる者もいます

こうした現象は科学的な検証になるものではなく、実験で再現されるものではありません

ですが、そのような形で人々へ真理が伝えられることもあるのです

ベーコンの理解には、キリスト教の持つ闇を破る力もあったでしょうが、真理へと到達する霊的道をふさいだ面もあります

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