私たちは毎日を生きていく中で、自分が誰かから何かを受け取っていることに、なかなか気づけません。気づかないどころか、足りないものばかりを数えて、不満を抱えてしまうことがよくあります。仕事への不平、暮らしへの不満、人間関係の苦しさ。そうした思いが心を占めると、自分は損をしている、報われていない、という感覚が強くなっていきます。でも少し立ち止まって、自分の一日を振り返ってみてほしいのです。今日あなたが口にした食べものは、誰がつくり、誰が運んできてくれたのでしょうか。
朝に飲んだ一杯の水も、夜に灯る明かりも、自分一人の力で生み出したものではありません。顔も名前も知らない大勢の人の働きが、いくつも重なって、ようやく私たちの手元に届いています。私たちは支えられて生きている。この当たり前のことを、ふだんはすっかり忘れて過ごしているのです。
誰もが、見えない手に支えられている
会社で働く人なら、仕事や職場について不満を口にしたことが一度はあると思います。自分は給料以上に働いているのに評価されない。そう感じる人は少なくありません。組織には、パレートの法則と呼ばれる傾向があるといわれます。二割の人が全体の多くを生み出し、残りの八割を支えているという見方で、二対八の法則とも呼ばれます。
ただ私は、この法則を誰かを責めるために使いたくはありません。なぜなら、その二割の人もまた、別の場面では誰かに支えられている八割の側だからです。職場で多くを担っている人も、家に帰れば家族の温かい食事に支えられ、誰かが整えた道や乗りものを使って通勤しています。支える側と支えられる側は、固定されたものではありません。私たちは立場を入れ替えながら、互いに寄りかかり合って生きています。例外なく、誰もがそうなのです。
奪っていることに、人は気づきにくい
家庭の中でも、同じことが起きています。当たり前のように出てくる食事、いつのまにか片づいている部屋、洗われた衣服。それを支えてくれる人の手間を、受け取る側は意識しにくいものです。やってもらって当然だと感じはじめたとき、私たちは知らず知らずのうちに、相手の時間と思いやりを奪っています。本人にその自覚はありません。だからこそ、奪う生き方は静かに進んでいきます。
不満というのは、自分が受け取っているものを見落として、足りないものだけに目を向けたときに生まれます。受け取っているものが見えていないので、いつまでも満たされません。逆に言えば、すでに与えられているものに気づけたなら、その瞬間から心の風景は変わりはじめます。
気づきは、感謝に変わっていく
支えられて生きていると本当に自覚できたとき、私たちの中には自然と感謝が芽生えます。感謝は、無理に持とうとして持てるものではありません。見えていなかった支えが見えるようになると、おのずとわき上がってくるものです。今日一日を成り立たせるために、どれだけ多くの人の働きが注がれているか。それが見えてくると、当たり前だと思っていた風景が、ありがたいものに変わります。
そうなると、心の向きも変わってきます。どれだけ楽をして得をするか、どれだけ多く受け取るか。そういう数え方をしていた人が、自分は何を返せるだろう、どんな役に立てるだろう、と考えはじめます。これが、奪う生き方から与える生き方への転換です。
与えた量が、与えられた量を上回るとき
受け取ったものより、与えたもののほうが多い。そう言える人が一人また一人と増えていくほど、世の中はやさしい場所に近づいていきます。一人ひとりが少しずつ多めに与えるなら、その余りが社会全体を温めていくからです。これは特別な人にしかできないことではありません。誰かのために席をゆずる、ひと言の感謝を伝える、目の前の仕事を丁寧にやり遂げる。小さな与えで十分なのです。
自分がどれだけ世の中に還元できたか、どれだけ誰かの役に立てたか。それを心の誇りとして生きていく人が増えるほど、この世界は天国に近づいていきます。まずは、自分がたくさんのものに支えられているのだと気づくこと。そこから、すべてが始まります。
今日からできること
一つ、今日受け取ったものを一つ思い出す。食事でも明かりでも、誰かの言葉でもかまいません。それが自分一人の力ではないと気づくところから始めます。
一つ、当たり前の中にある支えに目を向ける。家の中、職場の中で、誰かがしてくれていることを一日ひとつ見つけてみます。
一つ、感謝をその場で言葉にする。心の中で思うだけでなく、ありがとうと声に出して伝えます。受け取った相手も、あなた自身も温かくなります。
一つ、不満が出てきたら、受け取っているものを数え直す。足りないものを数える前に、すでにあるものに視線を戻してみます。
一つ、今日一つ、誰かに何かを与える。席をゆずる、手伝う、ねぎらう。小さな与えで十分です。それが世の中を温める一歩になります。
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