まだ言葉も知らないほど小さな私が、床を這うようにして、巨木のように大きな母の膝に向かって必死にハイハイしていた日。
母はその場に静かに膝をつき、温かいまなざしで私を迎えてくれていました。
下から見上げたその微笑みには、この世界すべての安心とぬくもりが詰まっていたように思います。
不思議なことに、その瞬間の母の視線――私を見つめている母親の目線からのビジョンも浮かんできました。
不安そうに右手を伸ばし、母にしがみつこうとする幼い頃の私の姿でした。
世間の常識からすれば幻想かもしれません。
けれど、きっとあのとき、母の深い愛が私の小さな心に、静かに、強く伝わっていたのでしょう。
思い返せば、父のことも、さまざまな思い出とともに蘇ってきます。
普段は怖くて、特に酒が入ると厳しくて怖い父でしたが、ある日、私を映画館に連れて行ってくれたことがありました。
暗い客席で、並んでスクリーンを見つめた時間。
その横顔は、どこか照れくさそうで、でもやはり親子の絆を感じるひとときでした。
今思えば、あのときの父と母の全ての仕草や眼差しの中に、
どれほど深い愛が息づいていたことでしょう。
私たち一人ひとりは、幼いころ、言葉にもできないほどの愛情に包まれて育ってきました。
けれど大人になると、忙しさや日常に追われて、そのことをすっかり忘れてしまいます。
愛されていたことも、守られていたことも、
ふいに心の片隅で霞んでしまうのです。
それでも――
思い出のなかの微笑みや、優しい手、
たとえぶっきらぼうな背中の向こう側にも、
確かな愛は流れています。
私たちは、見えない愛に抱かれて、今日という日を生きている。
忘れてしまいがちなその事実こそ、人生の根底にある最大の贈り物なのかもしれません。
そして今、ふいに蘇った記憶たちが、
私の心に優しい灯火をともしてくれます。
著書『アースチェンジ——近未来の警告書』では、これから訪れる地球の変革について書いています
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