2022年1月27日木曜日

肥料問題から始まる食糧危機の本質


突然ですが皆さん、化学史上で、人類に最も偉大な貢献をした発見は何だと思いますか?

ある人はペニシリンを上げるかも知れません

ペニシリンは世界初の抗生物質であり、1928年にイギリスのアレクサンダー・フレミング博士によって発見されました

この発見により肺炎や咽頭炎といったさまざまな病気の治療に使われ、多くの命がすくわれました

しかし、そんなペニシリンを抑えて、もっとも人類に貢献したとされる化学史上の発見は、ハーバー・ボッシュ法であると言われることが多いです

ハーバー・ボッシュ法とは、聞きなれない言葉ですが、これは大気中の窒素から、アンモニアを作り出す方法のことです

1910年、フリッツ・ハーバー博士とカール・ボッシュ博士が大気中の窒素と水素を反応させ、アンモニアを作り出すハーバー・ボッシュ法を発明しました

これにより、人類は、ほぼ無尽蔵にある大気中の窒素を利用して、窒素肥料を手に入れることが出来ました

この発明によって、人類は莫大な人口を抱えることが出来るようになり、現在の地球人口を支える発見になっています

つまり、窒素肥料の化学合成が無ければ、私たちはこれほど地球にたくさん住むことは出来ず、多くの人が飢えで亡くなることになります

コロナ禍にある今、私たちは肥料の高騰と品不足に直面しています

もしも肥料が手に入らなければ、いくら畑や農業従事者がいようとも、作物は手に入りません

もちろん、無肥料栽培という方法もありますが、現在の地球人口を養うほどの力は無いと思われます

肥料が無ければ、私たち人類は、いずれ大飢饉となり、大きな人口削減が起こってしまいます

肥料の問題についてお話しする前に、まずは簡単に肥料について説明します

大きく分けて、植物の生育に重要な肥料分として、窒素とリン酸、カリの三つがあります

これを「肥料の三要素」と言います

市販の化学肥料には、たいていこの三つが含まれていて、農作物を育てる際には、この三つを畑に入れて育てます

もちろんそれ以外にも、植物の生育には微量ミネラルが必要ですが、土壌に含まれているものもあり、最も重要で見ないといけないのがこの窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)なのです

それぞれの働きを簡単に説明します

窒素(N)は、別名「葉肥(はごえ)」といわれます

葉や茎を作る成分で、植物の体でたんぱく質になり、光合成に必要な葉緑素などの構成物質でもあります

リン酸(P)は、別名を「実肥(みごえ)」と言います

開花や結実を促す働きがあります

そしてカリ(K)は、別名「根肥(ねごえ)」といわれます

葉で作られた炭水化物を根に送り、根の発育を促す働きをします

農作物の生育には、これらの三要素が必要になってきます

実は、これらの肥料分が、国際的に高騰したり、入手が困難となる事態が進んでいます

それでは、一つ一つを見ていきましょう

まずは、窒素(N)です

この窒素肥料を作る費用の約80%が天然ガスによると言われます

窒素そのものは、地球の大気の主成分であり、大気中にほぼ無尽蔵に含まれているのですが、それを肥料として合成するためには、天然ガスや石油が必要になっています

現在は主に天然ガスが使われていて、窒素肥料は天然ガスで出来ていると言ってもいいくらいのものです

それがいま、天然ガスの高騰を受け、肥料の生産が削減されるなど、高騰を起こしています

天然ガスを先物でみると、1年前の2021年1月27日には1.864ドルだったのが、今日時点で4.011ドルまで上昇しています

昨年10月の暴騰からは下がってきたものの、いまだ高値圏を推移し、さらに最近は再び上昇傾向が見られます

こうしたエネルギー資源の高騰は、ガソリン価格の上昇にのみ見られるのではなく、電力価格の上昇にもつながり、物流の値上がりにも繋がります

そして天然ガスで出来る窒素肥料にも甚大な影響を及ぼし、世界的な減産の動きとなっています

後に述べますが、減産だけでなく、主要な肥料輸出国が、自国を優先するため、肥料の輸出制限に動いていることも、肥料価格高騰に拍車をかけています

すでにヨーロッパや南米などでも、肥料価格の高騰や、品不足により、作付け面積を減らしたり、窒素肥料の使用を減少させる動きがみられるそうです

窒素肥料の量を減らしていけば、当然、収穫量も減っていきますし、気候変動による影響も強く出て、さらなる収穫減になるおそれもあります

といっても、高くても天然ガスが入るなら、なんとかそれで自国での肥料生産に動けますが、世界では今、天然ガスの争奪戦が起こっています

世界は脱炭素に動いており、二酸化炭素を排出する石油の使用を減らし、排出量の少ない天然ガスの使用が進められています

世界中で、特に先進国では、脱炭素の動きを進めており、各国が競うように排出量を減らすことを明言しています

そのため、天然ガスの需要も急速に高まっています

日本は天然ガスを冷却したLNGの輸入量が世界一だったのですが、昨年は中国に越される逆転が起きました

昨年度の日本のLNG輸入量は7431万トンだったのに対し、中国の輸入量7893万トンとなっています

中国による天然ガスの爆買いも、価格高騰の要因になっています

こうした天然ガスの価格高騰から、窒素肥料の生産を停止したり、減産する企業も出ており、生産量が落ちています

窒素肥料の値段高騰も昨年から起こっており、日本でも昨年中は、輸入化学肥料は右肩上がりに上昇しています

これらを見る限り、窒素肥料の価格は、すぐに安定してくるとは思えず、今後も品不足や入手が困難となる事態、手に入ったとしても、価格が高騰して、野菜価格への転嫁が出来なければ、廃業する農家も増加するでしょう

ただでさえ日本は、農業従事者の高齢化が進んでおり、約7割が65歳以上とされているなかで、肥料価格の高騰に、ビニール価格やトラクターを動かすための石油、ハウス内を温めるための重油など、価格の上昇が続いていけば、もう農家を続けていけない人も多く出るでしょう

農業の生産も落ちてきて、引いては食料の安定供給にも不安が出てきます

話を戻し、次はリン酸(P)について考えてみましょう

農水省の発表によれば、令和元年のリン酸アンモニウムの輸入量(全量501千トン)のうち87%(435千トン)が中国に依存し、大きく開いて二位がアメリカ合衆国の11%(57千トン)、三位がモロッコの2%(9千トン)となっています

肥料元のリン酸はほぼ中国に依存していると言えます

非常に偏った輸入であり、これで中国から輸入が停止されれば、厳しい状況になります

実際にいま、中国は自国を優先させるため、輸出を制限しています

このまま中国が輸出を制限し続ければ、日本はもとより、世界的にも肥料不足が拍車をかけるでしょう

日本は87%と突出していますが、中国は世界的に見ても、りん鉱石の産出量が、19年度で1億1千万トン産出し、世界全体の46%を占めています

世界的に肥料のリン酸は中国に依存していると言えます

そもそもリン酸は、窒素肥料のように、大気中から合成することはできません

リン酸鉱石という土壌から産出されるものを加工して使用します

そのためリン酸鉱石の埋蔵量は有限であり、その過半数が、中国とモロッコに集中しています

かつて中国は、日本に対してレアアースの輸出を制限するという措置を取ったこともあります

先端電子機器を製造する日本にとっては、レアアースは死活問題でしたが、なんとか工夫を凝らしてしのいできました

そのように政治的な理由によって、リン酸についても突如入らなくなるという事がありえます

実際にすでに輸出を制限されており、それが長期化すれば、肥料不足や高騰も、さらに深刻さを増していくでしょう

ちなみに尿素という窒素肥料の代表的なものについても、日本は中国から多く輸入しており、一位のマレーシア45%に次いで、二位に中国37%の輸入比率となっています

次に、カリ(K)について見ていきます

カリ肥料となる塩化カリウムは、カナダ、ロシア、ベラルーシの三国で、世界の輸出量の約6割を占めています

日本においても塩化カリウムの輸入量は、カナダが65%(319千トン)、ベラルーシ12%(61千トン)、ロシア11%(55千トン)となっており、この三つの国で88%に達します

そのカリウム輸出国の代表であるベラルーシは大統領がアレクサンドル・ルカシェンコという人物であり、「ヨーロッパ最後の独裁者」という異名を持ちます

国内で行われた大統領選挙でも不正があったとも言われており、ルカシェンコ大統領に対する人権侵害の非難が欧米で強く、経済制裁が行われています

そのなかで、ベラルーシの重要な輸出品である塩化カリウムについても、欧米では輸出を制限する措置が取られています

そのため、ここでもまた肥料のカリが、世界的に不足する事態が発生しています

欧米がベラルーシと距離を取るなか、ロシアや中国が同国にすり寄っているのは不気味と言えます

中国が肥料の輸出を制限していると述べましたが、ロシアも自国優先のため、肥料の輸出を制限しています

これらの肥料産出国が、結託して輸出を制限していけば、世界的な食糧危機にも直結します

ロシアは、ウクライナ問題を挟んで、西側諸国との対立を深めています

もしもさらに関係悪化が続いていくなら、ロシアはベラルーシと結託して、カリの輸出を止めてくる恐れがあります

それに先ほど述べた中国が加わり、リン酸の輸出制限を続けるなら、世界的な食糧危機が訪れます

アメリカのバイデン政権の動きをみる限り、そうした危機を理解しているように見えません

世界は危うい所に立っていると感じられます

すでにコーンや大豆、小麦などの先物は、コロナ禍で高騰しており、各国で食糧価格が値上がりするインフレがみられます

これには中国による大量の買い占めがあると考えられます

中国は、世界の穀物の多くを買い占め、その在庫率は、トウモロコシが約7割、コメは約6割、小麦は約5割、大豆は3割超となっています

世界中の穀物を買い占める勢いです

こうした中国による爆買いが、穀物価格の上昇に繋がっているでしょう

中国では昨年、一昨年と、洪水や蝗害などにより、深刻な食糧危機に陥っていると言われています

食料不足を解消する目的もあり、なおかつ、今後の食糧危機をにらんでの先手を打っているようにも見えます

こうした事情から、国際的な食糧価格は高騰しています

ここにさらに肥料の世界的な不足が長期化すれば、さらなる価格高騰がありえますし、さらに危険なのは食糧が手に入らない事態まで想像できます

世界的に肥料の高騰や品不足を受けて、農産物の減産が続けば、食料不足が発生します

今回は食糧危機について、肥料の観点から述べましたが、それ以外にも、異常気象の常態化や、大規模火山の噴火などの自然現象による不作の問題、農薬の高騰による害虫被害の拡大、コロナ禍による人員不足や物流の混乱など、いろんな不安要素があります

私たちは食糧不足の危機が次期に訪れる可能性があることを、認識しておくべきでしょう

そのための対策として、政治的には、安全保障の観点から、食料の安定供給とともに、肥料の確保を企業任せではなく、国としても動くべきであるし、中国とロシアを接近させないようにしなくてはなりません

個人としても、農家の方は、肥料供給の不安定さが長期化するのを見越した備蓄や、施肥量が少なくても済むやり方に切り替えをしていかないといけません

消費者の私たちも、これから来る食糧危機に備えて、食糧備蓄を真剣に考えておくことです

そのように各自が備えていくことで、危機を乗り越えていかなくてはなりません

備えは最悪の事態を想定してやり、気持ちはゆとりをもって生きる事が大切です

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いずれ外国(輸入)頼みは破綻しますね。昔は「肥溜め」ってありましたよね。江戸時代くらいが循環型社会で地球にも優しい人々の営みだったのかな?もう戻る事は出来ないでしょうから、技術革新で苦境を脱して欲しい!

匿名 さんのコメント...

肥料の現状についてたいへん分かりやすく学ばせて頂きました。
有り難うございましたm(__)m。

匿名 さんのコメント...

窒素肥料は環境にも人間・動物にも悪いと聞きましたが、違うのでしょうか?
ただ、有機肥料でも肥料によっては、かえって環境に悪いとか聞いたことがあります。
環境に負担がかかりにくく、栄養価も高く美味しい「自然栽培」が良いと思いますが、育つまでに時間がかかったり、大量生産できなかったりとデメリットもあり、なかなか普及しません。非難している農家も多いように思えます。
耐寒性に優れていて、昔、人々を飢餓から救ったという「のらぼう菜」がまた、飢餓を救ったりとか出来ないかな…とも密かに思っておりますが。
寒冷化や経済的な問題以外にも問題は起こりそうですし、どの作物も育たなくなったらと考えると、どうするのがいいものか…悩んでしまいます。

匿名 さんのコメント...

だから聖書で言う艱難時代が始まってる、コロナの問題は、太陽活動の低下と共に、食料問題、水問題。戦争も起こるかもしれない。対して何もしようとしない日本や日本に居るキリスト教徒を聖書の創造主怒ってるよ。

今後のコメントは X(旧Twitter)にてお待ちしております。