ナフサ輸入4割減 政府が語らない石油不足の正体

2026年5月23日土曜日

時事問題 政治 石油危機


財務省が5月21日に公表した4月の貿易統計に、見過ごせない数字が並びました。

ナフサなどを含む揮発油の輸入量が、前年同月比で37.7%の減少。去年の同じ月に日本へ入っていた量の、6割あまりしか届かなかったということです。

原油全体の輸入量も63.7%減りました。1979年に統計を取りはじめて以来、最大の下げ幅だそうです。

中東からの原油にいたっては、67.2%の減少。中東からの揮発油は79.4%もの減少です。ホルムズ海峡が事実上ふさがれた影響が、統計の表面にあらわれてきました。

それでも政府はこの数か月、同じ言葉を繰り返してきました。

ナフサは、国全体として足りている。経済産業省も高市首相も、機会があるたびにそう説明します。

数字と説明が、まるでかみ合っていません。いまその裂け目に、これからの暮らしの先行きが映っています。

「足りている」と聞いて、私たちが思い描くもの


政府が足りていると言えば、多くの人はこう受け取ります。中東がだめでも、アメリカや中央アジアあたりから買い付けて、いつもどおりの量を確保できているのだ、と。

ガソリンスタンドも工場のラインも、これまでと変わらず回っていく。そう思っても無理はありません。政府がそう言うのですから。

ところが実際の数字は、その理解を真っ向から否定します。

代替の調達は、たしかに進んではいます。4月にアメリカから入った揮発油は、前年の206%に増えました。

206%と聞けば、たいへんな挽回に見えます。けれど、もとがほとんどゼロに近い量でした。

何倍にふくらもうと、絶対量はごくわずかです。中東からの揮発油が8割近く減ったぶんを、その増加分で埋めきれてはいません。

揮発油全体でも、4割近い目減りが残っています。

よそから仕入れて、いつもどおりに回している。その思い込みは、事実と違います。

届いているのは6割あまり。残りの4割弱は、届いていません。

「目詰まり」という、よくできた言葉


では政府は、足りないという現実をどう説明しているのでしょうか。ここで出てくるのが、目詰まりという言葉です。

経済産業省の説明は、こうなります。

日本全体で見れば量は確保できている。ただ流通の途中で偏りが起きて、必要な場所に必要なものが届かない。だから不足して見えるだけだ。

3月19日には石油元売や商社へ、販売を抑えず通常どおり流通させてほしいという、異例の要請まで出しました。

5月の連休中には、高市首相が各省庁に、休みの最中でも目詰まりの解消にあたるよう指示しています。

この説明は、ある一点でよくできています。

不足の原因を、買い占めや先回り発注に走った一部の事業者へ、移してしまえること。売り惜しむ業者がいる、慌てて多めに注文する業者がいる、だから末端に届かない。

その筋書きにすれば、供給そのものが4割近く細ったという、もっと根の深い話から目をそらせます。

買い急ぎや過剰な確保が流通を滞らせている面は、たしかにあるでしょう。

目詰まりの要因のひとつに買い急ぎがあるのは事実です。

ただ、それは挙げられた4つの要因のうちのひとつにすぎません。

しかも、買い急ぎの根っこには、代替調達が本当に続くのかという不安があります。

供給が細るという不安が、買い急ぎを生む。順番が、逆なのです。

業者が買い占めるから、足りないのではありません。足りないから、業者は買い占めるのです。

影を見せられている私たち


古代ギリシャの哲学者プラトンが残した、洞窟の比喩を思い出します。生まれたときから洞窟の奥に縛られた人々は、壁に映る影だけを見て、それを世界のすべてだと信じている。

背後で燃える火も、外に広がる本物の太陽も知らないまま、影の動きを読むことに長けていきます。

目詰まりという説明は、この壁の影によく似ています。

流通の偏りという、目の前で動く、わかりやすい影。

それを見つめているかぎり、私たちは洞窟の外で何が起きているのかを問わずにすみます。

けれど影を生んでいるのは、揮発油の輸入が4割近く減り、原油そのものが6割以上落ち込んだという、洞窟の外の現実のほうです。

4割が減れば、配り方を変えても足りません


はっきりさせておきたい点が、ひとつ。

揮発油の輸入が4割近く減ったのなら、流通の目詰まりをすべて解消したところで、足りないものは足りません。

配り方をどう工夫しても、配るもとが6割そこそこでは、行き渡らない家庭や工場が必ず出てきます。

配分の巧拙ではなく、総量の問題です。

政府の目詰まり論は、10人分の料理を10人で囲む席で、もとが6人分しかないのに取り分け係の手際が悪いと言っているようなもの。手際を直しても、料理は6人分のままです。

高市首相は、少なくとも国内需要の4か月分は確保したと語りました。

ただ、この4か月分にも、識者から疑問が出ています。

ナフサ本体の在庫に、そこから作られる中間製品の在庫まで足し込んだ数字で、正確とは言いがたいというのです。

仮に正しかったとしても、それは備蓄を取り崩しているという意味でしかありません。

入ってくる量が6割そこそこなら、備蓄は毎月減っていきます。蛇口を細く絞ったまま、浴槽にためた水で暮らしている状態。水位が下がるのは、時間の問題でしょう。

すでに現場では、その水位の低下が見えはじめています。

塗装用のシンナーが手に入らず、自動車整備に支障が出ました。

TOTOやクリナップは、住宅向けユニットバスの受注を止めています。

医療用のプラスチック資材にも、供給不安が広がってきました。

どれもナフサから作られる製品です。足りているはずの国で、現に物が届かなくなっている。

世界中からかき集めても、足りない


ここで、政府にいちばん有利な前提を置いてみましょう。

仮に、世界じゅうから日本にナフサをかき集めることに成功したとします。

それでも、品不足の心配が消えるわけではありません。

足りていないのは、日本だけではないからです。

ホルムズ海峡が止まって困っているのは、日本に限った話ではありません。

アジアの石油化学メーカーも、ヨーロッパの買い手も、中東に頼ってきた事情は同じ。

世界全体でナフサが細れば、限られた量を各国が奪い合うことになります。

買い付け先を広げるほど価格はつり上がり、競り負ければ、玉そのものが回ってきません。

代替調達とは、つまるところ、この奪い合いに加わることなのです。

しかも日本は、原油も石油製品も多くを輸入に頼り、国内に厚い緩衝材を持ちません。

たとえば、医療現場で使う使い捨て手袋は、国内で使う量の99%以上を輸入でまかなっています。

その大半は、アジアで作られる石油由来の製品です。

アジアで石油関連の品が値上がりし、品薄になれば、日本の病院や介護の現場は、そのまま揺さぶられます。

世界の不足が、国内の不足へ直結しやすい体質。

代替調達は、不足のスピードをいくらか緩めてくれるでしょう。

けれど、世界が足りていないかぎり、不足そのものを消すことはできません。

よそから買えばいい。その話は、よそに在庫があってはじめて成り立ちます。

これから私たちが見ておくべきもの


問題は、ここから先です。

備蓄を取り崩してしのぐやり方は、いつまでも続けられません。

入ってくる量が6割そこそこのままなら、夏が深まるほど在庫は薄くなり、目詰まりさえ直せば大丈夫という説明は、いずれ通らなくなります。

分かれ目は、ホルムズ海峡が落ち着き、中東からの調達がもとに戻るかどうか。

そこが戻らないかぎり、代替ルートをどれだけ急いでも、輸入価格の高騰は止まりません。

4月の原油の輸入単価は、1キロリットルあたり10万円を超え、初めて大台に乗りました。

3月から、5割近い上昇です。この高い原料費は、これから日用品や住宅、自動車の値段に、じわじわとのしかかってきます。

不安をあおりたいのではありません。むしろ逆です。

先の見通しが立つほど、人は落ち着いて備えられます。だからここで、今日からできることを書いておきます。

ひとつは、政府の足りているという言葉ではなく、実際の統計データや現場の声を聴くこと。

ふたつめは、慌てて買い占めに走らないこと。

買い急ぎが流通を滞らせる面は実際にあり、一人ひとりの先回りが、まわりまわって自分の首を絞めます。

普段からのローリングストックを心がけ、必要な分を、必要なときに。それが結局、いちばん早く全体へ行き渡らせる道になります。

みっつめは、値上がりを一時的なものと決めつけないこと。

原料費の上昇は、数か月遅れて製品の価格にあらわれます。

住宅や車など、大きな買い物を控えている人は、価格と時期の幅を少し広めに見ておくと、判断を慌てずにすみます。

そしてもうひとつ。エネルギーをどこから買っているのか。

その一点で、これだけ暮らしが揺さぶられるという事実を、忘れないこと。

中東に9割を頼ってきた構造は、私たち一人の力では変えられません。

けれど、選挙やエネルギー政策の議論で何を選ぶかは、私たち次第です。

最後に、ひとつだけ。

経済産業省の官僚と高市政権がいま果たすべきは、不足の責任を一部の事業者に押しつけることではありません。

中東に9割を頼ってきた調達構造のもろさと、ナフサの備蓄が20日分ほどしかないという現実を、国民に正直に語ることです。

原因をすり替えているうちは、打つ手もまた、的を外し続けます。

私はこれまで、政情不安やエネルギーの綱渡りが、いずれ日本の暮らしの足もとを直接ゆらす日が来ると、著書『アースチェンジ』をはじめ、折にふれて書いてきました。

残念ながら、私たちはいま、その局面のただ中にいます。

ただ、ここで起きているのは、ただの物不足ではないと、私は感じています。

心地よい説明と、不都合な事実。そのどちらに目を向けるのかが、私たち一人ひとりに問われています。

洞窟の壁に映る影に安心するのか。それとも、外の光のほうへ顔を上げるのか。

見えやすい目詰まりの奥で動いている、見えにくい本当の流れ。

それをとらえる目を養うことが、これからの数年を歩いていく、いちばん確かな備えになります。

数字は、私たちを脅すために並んでいるのではありません。

早く気づいた人から、支度を始められる。そのために置かれています。

きちんと見つめれば、混乱のただ中でも、足を取られずに歩いていけます。その一歩を、今日から。

【参考データ】2026年4月分 貿易統計(速報)(財務省、2026年5月21日公表)

  • 原油及び粗油の輸入数量:前年同月比 -63.7%
  • 揮発油(ナフサを含む)の輸入数量:前年同月比 -37.7%(対世界)
  • 中東からの原油輸入:前年同月比 -67.2%
  • 中東からの揮発油輸入:前年同月比 -79.4%
  • 原油の輸入単価:約101,400円/KL

出典:https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2026/2026044.pdf

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