物資不足が日常を止める前に、いま始める自給の暮らし

2026年5月3日日曜日

石油危機 備え


ある朝、いつも通りスーパーへ買い物に行ったら、生鮮コーナーから食品トレーが消えていた——。
そんな日が、もしかするとそう遠くない未来に訪れるかもしれません。

私は『アースチェンジ』を執筆して以来、地政学的な不安定さと、それに連動するエネルギー・物資の供給リスクについて繰り返しお伝えしてきました。多くの読者の方が、この数年の値上がりや欠品の中で、その兆しを実感されていると思います。

しかし本当に注意していただきたいのは、ここから先です。

石油製品の不足は、ガソリン代の高騰だけで終わりません。包装材・潤滑油・アドブルー(尿素水)など、私たちが日常的に意識すらしていない場所で、すでに進行しています。そしてそれらが連鎖的に止まったとき、生活は一気に昭和の時代に巻き戻されたような感覚に近づいていきます。

備蓄が大切なことは、私もブログでお伝えしてきました。けれども、長期化が進めば、備蓄だけでは乗り越えられない局面が訪れます。

今日は、その日に備えて、「依存しない暮らし」をいまのうちに学ぶということについて、ご一緒に考えてみたいと思います。

静かに進行している「物資不足」が、日常を止める日

石油は、私たちの暮らしのほぼすべてに織り込まれています。

食品の包装フィルム、肉や魚をのせる白いトレー、ペットボトル、洗剤の容器——これらはすべて石油由来のプラスチックです。包装材が不足すれば、いまのスーパーの商品陳列はそのままでは成り立ちません。

さらに、製造業のラインを支えている 潤滑油 が不足すれば、自動車工場も食品工場も止まります。「材料は届いたのに、機械が動かせない」という事態が起きます。

そしてもう一つ、見落とされがちなのが アドブルー(尿素水) の問題です。日本国内を走るディーゼルトラックの多くは、排ガス浄化のためにアドブルーを必要とします。これが切れれば、トラックは法令上も実質的にも走れません。

トラックが止まれば、配送が止まります。

配送が止まれば、コンビニも、ドラッグストアも、ネット通販も、機能を失います。

これらは別々の話のように見えて、すべて「石油」という一本の糸でつながっています。一つの糸がほつれたとき、社会全体が同時に揺らぐ構造になっているのです。

備蓄では乗り越えられない「長期化」という現実

「備蓄をしておきましょう」というメッセージは、ここ数年、いろいろな場所で語られるようになりました。私自身も、その重要性は何度もお伝えしてきました。

ただ、備蓄には必ず期限があります。

食料は数か月から数年。電池も劣化します。日用品も、収納できる量には限りがあります。

本当に厳しい局面は、不足が「数か月で収まるのか、それとも数年続くのか」が分からないところに立ち現れます。

仮に流通の混乱が一年、二年と続いたとき、備蓄だけで家族を守りきるのは、現実的に難しい——これは脅しではなく、冷静な現実認識です。

だからこそ、いま私たちに必要なのは、もう一段先の準備です。

それは、「物資がなくても困らない暮らし方を、いまのうちに身につけておく」ということ。

たとえ何かが手に入らなくなっても、自分の手で代わりを作れる、あるいはそもそも必要としない暮らしへ、少しずつ移行していくということです。

プラスチックに頼らない、小さな置き換えから始める

たとえばラップ。一回使って捨てる薄いポリエチレンの代わりに、シリコンラップ蜜蝋ラップに置き換えると、何度も洗って使えます。

お皿の上に被せる、半分残した玉ねぎを包む、お弁当のサンドイッチをくるむ。これだけで、家庭から出るプラスチックごみは目に見えて減ります。

保存容器も、ガラスやホーローに少しずつ切り替えていく。残り物はガラス瓶に、漬物はホーローに。これは私の母の世代であれば、ごく当たり前の風景でした。

キッチンの布巾、台所のたわし、繰り返し使える買い物袋——どれも昭和の家庭にあったものです。

ここで大切なのは、「不便」ではなく「丁寧」と捉え直す視点です。

使い捨てが普通になったのは、たかだかこの50年ほどのこと。それ以前の人類は、ずっと「使い続ける」「直して使う」暮らしを当たり前に営んできました。

私たちが取り戻そうとしているのは、決して劣った暮らしではありません。むしろ、ものを大切に扱う感性そのものなのです。

家庭菜園——「育てる・収穫する・食べる」の一連を体験する

もう一つ、いまのうちに学んでおきたいのが、家庭菜園です。

ベランダのプランター一つでも構いません。「自分の手で野菜を育てて、それを食卓にのせる」までを、一度でも経験しておくこと。これが、いざという時の心の支えになります。

不思議なもので、自分で種から育てた小松菜やバジルを口にしたとき、私たちは何か言葉にならないものを感じます。土と水と光、そして時間が、命の形をとってここに現れた——その感謝のような感覚です。

スーパーの棚から野菜が消える日が来ても、自分で野菜を育てた経験のある人と、まったくない人とでは、心の落ち着きがまるで違います。

最初は、育てやすいものから始めるのがいいでしょう。小松菜、ネギ、ジャガイモ、サツマイモ、シソ、ミニトマトなどは、初心者でも収穫まで辿り着きやすい野菜です。

特にジャガイモやサツマイモは、肥料が少なくてもよく育ち、保存も利きます。これは後で触れる「肥料問題」の答えにもつながっていきます。

もう一つの壁——肥料の高騰と不足

家庭菜園を始めようとすると、ほどなくして気づくのが、肥料の高騰です。

化学肥料の主原料の多くは、もともと国外からの輸入に依存しています。窒素・リン酸・カリウムのうち、特にリン鉱石とカリウムについて、日本はほぼ100%を輸入で賄っています。

地政学的な緊張が続けば、これらの供給と価格は、これまで通りには維持されません。

ここでも、対策はひとつではありません。三つの方向性を、組み合わせて考えるのが現実的です。

ひとつめは、そもそも化学肥料に依存しない育て方を学ぶこと。

自然農法を体系化した福岡正信は、晩年の著書のなかで「自然は人間の余計な手出しを必要としていない」という趣旨のことを繰り返し書きました。落ち葉、ぬか、生ごみのコンポストといった身近なものを使いながら、土の力そのものを引き出していく方法は、いまから少しずつ学んでおく価値があります。

ふたつめは、そもそも肥料をあまり必要としない野菜を選ぶこと。

ジャガイモ、サツマイモ、ニラ、ミョウガ、シソ、青ジソ、ゴーヤ、空芯菜——こうした野菜は、痩せた土でもしっかり育ってくれる頼もしい存在です。家庭菜園を始めるなら、まずこちらを優先するという選び方もあります。

みっつめは、化学肥料を使う前提なら、いまのうちに必要量を備蓄しておくこと。

密閉して湿気を避けて保管すれば、数年単位で品質を保てる肥料もあります。価格が落ち着いている時期に、自分が一年で使う量を把握し、二〜三年分を確保しておく。これは食料備蓄と同じ発想です。

どれか一つに賭けるのではなく、三つを組み合わせる。これが、家庭でできる現実的な肥料対策だと、私は考えています。

宮沢賢治が描いた、足るを知る暮らし

宮沢賢治の有名な詩のなかに、こんな一節があります。

「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ。丈夫な体を持ち、欲はなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている。

——雨ニモマケズ、風ニモマケズ。


この詩を、ただの理想論として読んできた方も多いかもしれません。けれども私には、これは未来の私たちへの、極めて具体的な処方箋のようにも読めます。

玄米と味噌と少しの野菜——これは、家庭菜園で育てられる範囲の食事です。輸入が止まり、流通が乱れたときでも、自給に近い形で支えられる食卓です。

そして、欲を手放し、怒りを鎮め、静かに笑う心。

これこそが、外側がどれほど揺らいでも、内側で揺るがずにいられる人の姿だと思うのです。

危機の時代は、ともすれば私たちを「奪われる」「失う」という恐れの中に閉じ込めます。けれども見方を変えれば、それは、本当に必要なものは何だったのかを、もう一度思い出すための時間でもあるのです。

今日からできる、五つの小さなステップ

最後に、今日から始められる具体的な行動を、五つに絞ってお伝えします。

1. プラスチック製品を、少しずつ「繰り返し使えるもの」に置き換える
ラップをシリコンラップや蜜蝋ラップに、保存容器をガラスやホーローに、買い物袋を布製のエコバッグに。一度に全部ではなく、買い替えのタイミングで切り替えていく。

2. プランター一つでいいから、家庭菜園を始める
ベランダの小さなスペースで、小松菜やネギから。土に触れて、芽が出る瞬間を見ることが、何よりの予行演習になります。

3. 肥料がほとんどいらない野菜を、ひとつ覚える
サツマイモ、ジャガイモ、ニラ、シソのうち、自分の環境で育てやすそうなものを一種類。これだけでも、いざという時の食卓の支えになります。

4. 化学肥料を使うなら、いまのうちに数年分を備蓄しておく
食料備蓄と同じ考え方で、肥料も「価格が落ち着いている今のうちに」確保する。湿気を避けた保管が長持ちのコツです。

5. 昭和の暮らしを描いた本を、一冊読んでみる
祖父母の世代がどのように一日を営んでいたか。そこには、物が少ない時代を心豊かに生きるヒントが詰まっています。「不便」ではなく「丁寧」と感じる感性を、文字を通して取り戻していく。

外側が揺らぐ時代こそ、内側で立つ

物資が止まったとき、本当に困るのは「物がないこと」そのものよりも、「物がない暮らしを知らないこと」かもしれません。

祖父母の世代は、戦後の混乱期を、いまよりずっと少ない物資で生き抜きました。彼らに特別な力があったわけではありません。ただ、「ない暮らし」を知っていただけです。

私たちは、その記憶を一度どこかに置き忘れてきてしまいました。けれども、いまならまだ間に合います。

シリコンラップに替えること。プランターに種をまくこと。肥料の工夫を学ぶこと。一つひとつは、本当に小さな行動です。けれどもその小さな行動の積み重ねが、いざという日に、家族の食卓と心を守ります。

そしてもう一つ、忘れてはいけないことがあります。

外側の世界がどれほど揺らいでも、本当の安心は、いつも自分の内側で静かに知られていた——この感覚を取り戻しておくことです。

私はこのことを、論考とは違う「物語」というかたちでも書き残したいと思い、拙著『ソフィアの森で見つけた幸せの鍵』を書きました。

物質的な備えと並んで、もう一つの大切な備え——心の備え——について、賢者ソフィアと一人の旅人の対話を通して、静かに辿るような一冊です。

本記事の余韻のなかで、もし続きを訪ねてみたいと思ってくださったなら、嬉しく思います。

昭和に巻き戻されたような暮らしが訪れるとしても、それは決して、私たちを不幸にする時間ではありません。

むしろ、奪われる前に思い出すための、静かな招待状なのかもしれません。

あなたの食卓が、来るべきどのような時代にも、温かい湯気をたて続けますように。

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ソフィアの森で見つけた幸せの鍵

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