「おい、いい加減に起きろよ!」
俺は必死に叫んでいた。
目の前には、満員電車で疲れ切った顔をして座り込んでいる「俺」がいるからだ。
いや、正確には「俺の肉体」だ。
通勤途中の心臓発作。
あっけない幕切れだった。
享年五十二。
中小企業の営業部長。
妻と娘が一人。
「死んだら無になる」
「魂なんてものは脳が見せる幻覚だ」
そう信じて生きてきた俺にとって、今のこの状況はパニック以外の何物でもなかった。
俺はここにいる。
意識もしっかりある。
手足もある。
スーツも着ている。
なのに、救急隊員は俺の身体を担架に乗せて運び出し、野次馬たちは俺の身体を通り抜けていく。
「ふざけるな! 俺は生きてるぞ!」
俺は叫び続けた。
しかし、誰も振り向かない。
世界は急に、薄いグレーのフィルターがかかったように色あせて見えた。
俺は、自分が死んだことを認められなかった。
ただの悪い夢だ。
そう思い込もうとして、俺はいつものように新橋の繁華街へと足を向けた。
■ 満たされない渇き
夜の街は、いつも通り賑やかだった。
赤提灯の明かり。
焼き鳥の焼ける匂い。
俺は馴染みの居酒屋の暖簾をくぐった。
「大将、熱燗とつくね!」
そう注文して、いつものカウンター席に座ろうとした。
その時だった。
見知らぬ客が、俺の上にどさりと座ってきたのだ。
「うわっ!」
俺は飛びのいた。
いや、正確には、その男は俺の体を「すり抜けて」座ったのだ。
「なんだよ、これ……」
カウンターには、他の客が頼んだビールが置かれている。
喉が焼けるほど渇いていた。
俺は震える手でジョッキを掴もうとした。
スカッ。
手はガラスをすり抜け、何も掴めない。
何度やっても同じだった。
目の前に酒があるのに飲めない。
匂いはするのに味わえない。
その時、俺の背後で低い笑い声がした。
「おい、新入り。やり方が違うぜ」
■ 悪魔の囁き
振り返ると、薄汚れた作業着を着た男が立っていた。
顔色は土気色で、目が異様にぎらついている。
生きている人間ではないことは直感で分かった。
「酒が飲みたいんだろ?」
男はニタニタと笑いながら俺に近づいてきた。
「いいか、自分じゃ飲めねえんだ。あいつらを使うんだよ」
男は、カウンターで泥酔しているサラリーマンを指差した。
「あいつの背中から入り込むんだ。波長を合わせるんだよ。『飲みたい、飲みたい』って強く念じて、あいつの神経に覆いかぶさるんだ」
俺は躊躇した。
だが、喉の渇きと、死の恐怖を紛らわせたい欲求が勝った。
俺は教えられた通り、泥酔した男の背後に立ち、その体に自分の体を重ね合わせた。
「うっ……」
生温かい、湿った感覚。
他人の汗と欲望の匂いが混じったような不快感。
しかし、その男がビールを喉に流し込んだ瞬間。
俺の喉にも、確かなビールの刺激と冷たさが伝わってきたのだ。
「飲めた……! 俺は飲めるぞ!」
俺は歓喜した。
だが、それも束の間だった。
その男の心の中にある、ドロドロとした鬱屈、上司への殺意に近い憎しみ、家庭への不満が、汚水のように俺の中に流れ込んできたのだ。
「うわあぁぁッ!」
俺はたまらず、その男から飛び出した。
「ははは! 最初はそんなもんだ。慣れれば快楽だけ吸い取れるようになるさ」
さっきの男が笑っていた。
周りを見渡すと、他にも何体もの薄汚れた霊たちが、生きている人間にへばりつき、精気をすすっているのが見えた。
まるで寄生虫だ。
俺は吐き気を催した。
「俺は……俺はこんな浅ましい化け物にはなりたくない!」
俺は店を飛び出した。
「逃げるのか? ここ以外に、お前の行く場所なんてないんだぞ!」
男の嘲笑を背に、俺は夜の闇の中をがむしゃらに走った。
■ 荒野の彷徨(ほうこう)
どれくらい走っただろうか。
気がつくと、俺は見たこともない場所にいた。
そこは、新橋でも東京でもなかった。
ごつごつした岩肌がむき出しになった荒野。
空はどんよりとした鉛色で、太陽も月も見当たらない。
寒風が吹き荒れ、肌を刺すような冷たさだ。
「ここはどこだ……」
人は誰もいない。
あるのは静寂と、どこまでも続く岩場だけ。
俺は歩いた。
来る日も来る日も歩いた。
腹は減らないが、心細さと寒さが身に染みる。
これが死後の世界なのか?
俺が生前、部下を怒鳴り散らし、ライバルを蹴落とし、金と数字だけを追い求めてきた結果がこれなのか?
「誰か……誰かいないのか!」
叫んでも、返ってくるのは自分の声の反響だけ。
俺は岩陰にうずくまり、膝を抱えた。
孤独。
圧倒的な孤独。
生きている時は、地位や肩書きが俺を守ってくれていた。
だが、ここでは俺はただの「惨めな魂」に過ぎなかった。
俺の心に、ふと、妻の顔が浮かんだ。
いつも仕事ばかりで、ろくに話も聞かなかった妻。
娘の授業参観にも行ったことがなかった。
「すまなかった……」
涙がこぼれた。
俺は、自分がどれほど傲慢で、利己的な人間だったかを思い知らされた。
金も名誉も、ここには何一つ持ってこれなかった。
俺に残されたのは、この寒々しい心だけだったのだ。
「神様……もしいるなら、助けてくれ」
「俺は間違っていた。もう一度、やり直させてくれ……」
唯物論者だった俺が、初めて心の底から祈った瞬間だった。
■ 救いの光
「やっと気づきましたか」
頭上から、鈴を転がすような優しい声が聞こえた。
顔を上げると、鉛色の空の一角が破れ、そこから一筋の黄金色の光が差し込んでいた。
その光の中に、ひとりの男性が立っていた。
白いローブをまとい、顔は光り輝いていてよく見えないが、なぜか懐かしい、温かい感じがする。
「あなたは……?」
「私はずっとあなたを見ていました。あなたが自分の力で、その欲望の泥沼から抜け出し、心を開くのを待っていたのです」
彼は地上に降り立ち、俺に手を差し伸べた。
「さあ、行きましょう。ここはもう、あなたのいる場所ではありません」
俺がその手を取った瞬間。
体が羽のように軽くなった。
あの重苦しい岩場が、みるみる遠ざかっていく。
寒さが消え、春の日差しのような温もりが俺を包み込んだ。
■ 魂の故郷へ
霧が晴れると、そこには信じられない光景が広がっていた。
鮮やかな緑の草原。
キラキラと輝く小川。
そして、色とりどりの花が咲き乱れる庭園。
「ここは……天国か?」
「ここは『霊界』。魂たちが休息し、学び、本来の姿に戻る場所です」
彼は微笑んで言った。
「ケンジ!」
向こうから、若い男が手を振って走ってくる。
「お前……死んだ親父か?」
三十年前に死んだ頑固親父が、俺の記憶にあるよりもずっと若く、三十代の頃の姿で立っていた。
「バカ野郎。ずいぶん遠回りしてきやがって。心配させやがって」
親父の目には涙が浮かんでいた。
その時、俺は理解した。
死は終わりではなかった。
そして、俺が彷徨っていたあの暗い荒野は、神が作った罰ではなく、俺自身の冷たい心が作り出した幻影だったのだと。
俺は今、心から思う。
生きているうちに、もっと愛を伝えればよかった。
もっと、人のために生きればよかった。
でも、遅くはないらしい。
ここからでも、地上の家族を見守り、償うことができるという。
俺の本当の人生は、ここから始まるのだ。
もし、これを読んでいるあんたが、俺みたいに「死んだら終わり」だと思っているなら。
あるいは、酒や欲に溺れているなら。
今のうちに考え直したほうがいい。
死んだ後に持っていけるのは、あんたの「心の在り方」だけなんだからな。
(完)
∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴
人生の森で、道に迷っている、あなたへ。
すべての“絶望”が、希望への招待状だったと知った時、
きっと、あなたの魂は、感動で震える。
時を超えた、あなた自身からのメッセージが、
この一冊の物語の中で、あなたを待っています。
∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴
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