人生における絶望が教えてくれるもの キルケゴールの実存主義哲学

2019年12月23日月曜日

スピリチュアル 真理 神仏 人物


私たちが生きている間に、絶望を体験する事があります

どうしても乗り越えられそうにない壁を感じたり、進退窮まるような状況にある時に、人は絶望を感じます



そうした絶望と真摯に向き合い、考えた哲学者がいます

それがセーレン・キルケゴールというデンマークの哲学者であり、彼は実存主義の創始者とされています

実存主義には後にハイデガーやサルトル、カミュなどが出てきますが、彼らに影響を与えた人とされます

キルケゴール氏本人について語る前に、彼の父親について語らなければなりません

彼の父親はミカエルという名で、熱心なクリスチャンでしたが、貧しい農民をしていました

ミカエルは自分の置かれた環境の苦しさから、若い頃に神を呪ったことがあったと言います

そんな貧かったミカエルは、首都のあるコペンハーゲンに移ってから事業で成功し、裕福な家庭となりました

しかし、熱心なクリスチャンでもあるミカエルは、この世俗での成功は、神を呪ったことに対する代償であり、罰であると考えるようになります

その代償として、ミカエルには七人に子供がいたのですが、子供たちはイエスの年より早く亡くなる、34歳までに死ぬと思い込んでしまいます

たしかに長男と末っ子のキルケゴールを除いた5人の子供たちは、34歳になる前に若くして亡くなったと言われます

そしてもう一つ、神に罰せられると思ったのが、ミカエルが後に妻となる女性を乱暴して妊娠させた過去があったからのようです

そのため自分は神に罰せられると信じていました

この父親の強烈な思い込みが、子供のキルケゴールにもインプットされ、彼も34歳までに自分は死ぬのだと信じ込んでいました

キルケゴールが父親の罪を知った日を「大地震が起きた」と表現し、それから放蕩生活を送ったという説と、逆に放蕩生活をあらため、キリスト教への信仰を取り戻したとも言われています

この父親の存在が、キルケゴールの生涯に影を落とし、絶望へと対峙するきっかけとなったでしょう

キルケゴールの人生にはもうひとつ大きな事件が起こります

彼が27歳の時、18歳のレギーネという女性に求婚し、彼女はそれを受けて二人は婚約します

ですが、その約一年後に、彼は一方的に婚約を破棄してしまいます

結婚破棄の理由は明確に述べられておらず、彼は日記の中で「この秘密を知るものは、私の全思想の鍵を得るものである」という台詞を残しています

理由は未だに謎なのですが、キルケゴールが自身が34歳までに亡くなる不幸な運命にある(と信じ込んでいる)事。父親の罪のもとに生きていて、そこに彼女を巻き込みたくなかったという理由が考えられます

キルケゴールは人間が成長して辿っていく道で、絶望に直面して、自身の在り方である実存は深まっていくと考えました

彼はそれを「美的実存」から「倫理的実存」へ、そして「宗教的実存」へ至る道ととらえています

まず「美的実存」ですが、これは快楽や美を求める段階にある生き方です

美味しいものを食べたり、異性との肉体関係にふけったり、芸術や音楽など、肉体感覚を優先するような生き方です

肉体に受け取る感覚を重視して、楽か苦かを選び、楽を求めるような生き方と言えるでしょう

多くの現代人がこうした「美的実存」の中にいるのかも知れません

ですが、快楽はずっと得られるものでも無く、いつか挫折したり絶望することになります

そうして絶望をきっかけとして、次の段階に進みます

それが「倫理的実存」です

「倫理的実存」では、人は倫理感や正義感など、道徳的に生きようとします

なるべく善を行って悪を離れるように努力します

そして善人として正しく生きようとするのです

しかし、そこでも絶望が待っています

いくら倫理的に生きようとしても、人は罪を犯してしまいますし、まったく善そのものになりきることは出来ません

こうして倫理的実存に生きた人間も絶望に直面します

そして第三段階の実存である「宗教的実存」へと魂は飛躍するのです

倫理的に生きる事に絶望した人間は、神を前にして有限で弱い存在である自分を自覚し、「宗教的実存」へと飛躍します

人は神と一対一で対峙して、絶対的な存在と向き合うことで、本来の自分自身を取り戻します

このようにして神のみが人間を絶望から真の実存へと引き上げてくれるとする考えが、キルケゴールの到達した真理でした

これはユダヤ教徒として模範的に生きようとして偽善者となってしまったことを自覚し、キリスト教に目覚めたパウロの改心や、悪人としての自分を自覚し、阿弥陀様の救いに到達した親鸞聖人の信仰に通じるものがあるでしょう

一種の宗教的な自覚であり、悟りの一面であると思います

キルケゴールはそれを哲学的に考証し、論理的に述べたのですね

厭世的な傾向もあるものの、絶望の底を破れば、一条の光が射すことを示していると思います

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