七月二十八日の夕方、熊本を震度七の揺れが襲いました。
三十日の時点で、亡くなった方は三十四人。断水は七万九千七百戸、避難所で夜を過ごしている方が九千二百人ほどと伝えられています。
亡くなられた方々の魂が、どうか安らかな場所へ帰られますように。残されたご家族の悲しみが、少しずつでもほどけていきますように。水の出ない家で夜を越している方に、一日も早く普通の朝が戻りますように。
余震への警戒はまだ解けていません。いま現地にいる方は、ここから先は読まなくていいです。休めるときに休んでください。
この数日、私がずっと考えていたのは、日常というものの薄さでした。昨日まで当たり前だったものが、十数秒で形を変えてしまう。そういうことが、この星では起こります。
そのうえで、いま感じていることを書いておきます。地震とは別の話です。ただ、備えるという一点でだけ、地続きになります。
戦火は一国では終わらない
イランをめぐる戦いが続いています。これはイラン一国では終わりません。
周辺の国が、それぞれの事情を抱えて、一つ、また一つと巻き込まれていきます。望んで入る国は、たぶん多くない。けれど逃げ場のない位置に立たされた国から順に、当事者になっていきます。戦線は、地図の上でじわじわ太くなるでしょう。
海が細ると、それは値段になる
戦乱が広がって最初に細るのは、海です。ホルムズ海峡と紅海。どちらも世界の物流の心臓に近い場所です。
砲弾が落ちなくても、船は止まります。保険が下りない、船主が船を出さない、船員が乗りたがらない。それだけで海は閉じます。
喜望峰まわりにすれば、アジアとヨーロッパのあいだで十五日から二十日よけいにかかる。その燃料と時間と人件費は、全部、値段になって私たちのところへ戻ってきます。
備蓄は、時間を買っているだけ
いま世界がなんとか回っているのは、備蓄を取り崩しているからです。
三月、IEA加盟国が四億バレルの協調放出で合意しました。過去最大の規模です。けれど四億バレルは、世界の消費の四日分でしかない。日本も国家備蓄と民間備蓄を削って、その中に加わっています。
備蓄というのは、減らしながら時間を買うものです。
ある試算では、このペースの放出が続けば、二〇二七年のうちに底が見えてきます。底が見えた瞬間、値段は跳ねます。
そして、買える人と買えない人が分かれる。配給、割当、優先順位。そういう言葉が、ニュースの中に自然に混ざり始めるでしょう。
燃料が上がれば、ほとんどすべてが上がります。一度おさまりかけた物価の上昇が、もう一度、下から押し上げられる。今度のインフレは、給料が追いつくのを待ってはくれません。
肥料は、形を変えたエネルギー
ここからが、いちばん見落とされているところです。
窒素肥料は、天然ガスから作ります。空気中の窒素と、ガス由来の水素をくっつけてアンモニアにする。つまり肥料は、形を変えたエネルギーです。
中東でガスの生産が止まれば、肥料が止まる。しかも世界の肥料貿易の三分の一は、ホルムズ海峡を通っています。
兆しはもう出ています。六月からの秋肥で、輸入尿素は一四・五パーセント上がりました。中国は国内を優先して、尿素の輸出を事実上閉じています。
肥料が高くなると、農家は使う量を減らします。減らした分は、翌年の収穫に出る。畑の異変は、一年遅れて食卓に届きます。
だから食料危機というのは、ある日突然やって来るものではありません。去年の春にはもう始まっていた、という形で気づかれます。
小麦、とうもろこし、大豆。輸出国は自国の分を先に確保します。輸出制限は連鎖します。
日本は肥料も燃料も飼料も、海の向こうから買っている国です。この連鎖のいちばん端に立っている。そう思っておいたほうがいいのです。
これを学びに変えていく
脅かすためにかいているのではありません。
この連鎖が見せているのは、私たちがどれほど深くつながっていたか、ということです。遠い海で船が減るだけで、こちらの食卓の皿が軽くなる。そんな仕組みの上に、私たちはずっと立っていました。
平穏なあいだは、誰もそれを感じませんでした。痛みを通してしか見えないところまで来てしまった。
地球は、いまひとつの器としてふるまい始めています。どこかで奪えば、どこかが飢える。その当たり前が、数字と値段になって突きつけられる時期に入りました。
これは地球そのものの歩み、奪い合いを前提にした仕組みが、もう保たなくなったというだけのことです。
魂は、豊かなときにはあまり変わりません。足りなくなったときに、はじめて何を選ぶ人間なのかが出ます。
自分の家の分だけを積み上げる人もいる。最後の一袋を隣に回す人もいる。どちらを選んでも誰にも咎められない場面が、これから何度も来ます。そこで何を選ぶのかを、魂はちゃんと見ています。
備えはしてください。恐れからではなく、落ち着いていられるために。水と、少しの食べ物と、火。熊本でいま起きていることが、そのまま教えてくれています。
落ち着いている人が一人いる場所には、人が集まります。その落ち着きが、これからいちばん値打ちのあるものになります。
星は、試練を与えているのではありません。私たちがどこまで一つの家族としてふるまえるかを、待っているのです。
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