自分探しという言葉があります。自分の納得のいく生き方を求めて旅に出る。会社を辞めて遠い土地を巡る。いろいろな勉強会やワークショップに参加する。私のところにも、そうやって長い道のりを歩いてきた方がよく訪ねてきます。みんな真剣です。今の自分ではない、もっと本当の自分がどこかにいるはずだと信じて、世界のあちこちを訪ね歩いています。
けれども、ここで一つお伝えしておきたいことがあります。いくら世界を歩き回って自分を探しても、そこに答えは見つかりません。私は自分探しを否定したいのではありません。旅も学びも、人生を豊かにしてくれます。ただ、探し方の向きが反対だと、どれだけ歩いても同じところをぐるぐる回ることになるのです。
外に自分を求めても、なぜ空回りするのか
多くの自分探しがうまくいかないのは、自分を「どこかにある宝物」のように思っているからです。正しい職業、運命の場所、自分にぴったりの生き方。それを見つけさえすれば人生が変わると考える。だから次々と新しい環境を試し、見つからないとまた別の場所へ移っていきます。
でも、よく考えてみてください。探している「自分」とは、いったい誰でしょうか。それは今ここで探している、その人自身です。探す主体と探される対象が同じものなのです。鏡に映った顔を追いかけても、永遠に追いつけないのと似ています。外を向いて自分を求めているかぎり、自分はいつも一歩先に逃げていきます。
そして自分探しが熱を帯びるほど、心は自分自分でいっぱいになっていきます。自分はどう見られているか、自分にふさわしい場所はどこか、自分の才能は何か。気づかないうちにエゴの塊になっている。エゴが大きく膨らんだ状態では、どんなに正しいヒントが目の前に来ても、それを受け取れません。求める気持ちが強すぎて、与えられているものに気づけなくなるからです。
求めるのではなく、自らを差し出す
本当の自分は、求めて得られるものではありません。むしろ逆です。自らを差し出すことで、はじめて姿を現します。これは少し不思議な言い方に聞こえるかもしれません。けれども、振り返ってみてほしいのです。あなたが自分らしいと感じられた瞬間は、たいてい誰かのために動いていたときではなかったでしょうか。
困っている人に手を貸したとき。任された仕事に没頭していたとき。家族のために黙々と何かをしていたとき。そういう時間のなかでは、自分のことを考える隙間がありません。自分が消えているのに、なぜか満たされている。あれこそが、本当の自分が働いていた時間です。自分を脇に置いたときに、自分が立ち現れる。人間とはそういうふうにできています。
世界から求められている自分を差し出す
では、自分を差し出すとは具体的にどう生きることなのか。それは、世界に自分を求めるのをやめて、世界から求められている自分を差し出していくということです。
あなたの周りには、必ず誰かが、何かを必要としています。職場で手が足りていない仕事があります。言葉をかけてほしくて待っている人がいます。あなたがいるからこそ回っている場所があります。そこに目を向けてみてください。私に何が求められているだろう、と問い直すのです。すると、遠くへ旅に出なくても、今いる場所に自分の役割が見えてきます。役割を一つ引き受けるたびに、自分の輪郭がはっきりしてきます。
世界はあなたを試すために用意された他人事の舞台ではありません。あなたが応えるのを待っている、たくさんの呼びかけの集まりです。その呼びかけに一つずつ応えていく。求めることをやめて、応えることを始める。そのとき自分探しの旅は終わり、本当の人生が静かに始まります。探していた自分は遠い世界にではなく、誰かに差し出された手のひらの上にあったのです。
今日からできること
一つ、自分に何が足りないかではなく、周りに何が足りないかを見てみる。今日一日、自分の不足を数えるかわりに、目の前で誰が何を必要としているかに気づいてみてください。
二つ、頼まれごとを一つ、気持ちよく引き受ける。面倒だと感じても、その小さな役割のなかに自分の居場所が隠れています。引き受けた先で輪郭が見えてきます。
三つ、今いる場所で「私にできることは何か」と問う。遠くへ行かなくてもかまいません。今の職場、今の家庭で、自分が差し出せるものを一つ探してみてください。
四つ、自分のことを考えずに過ごせた時間を思い出す。没頭していた時間、誰かのために動いた時間。そこにあなたらしさの手がかりがあります。
五つ、求める前に、まず一つ与えてみる。感謝の言葉でも、手助けでも、笑顔でも。差し出すことから始めると、不思議と必要なものが返ってきます。
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