2013年1月26日土曜日

「ヨハンの絵本」 物語・後編


翌朝、ヨハンは隠れ家で目を覚まし「いけない。あのまま寝てしまってた。早く仕事にいかなくちゃ」そう言ってあわてて駅に向かいました



いつも駅の前で靴みがきをする、ヨハンより一つか二つほど年下の男の子が、親しげに声をかけまてきました

「おはよう。あらあら。今日はズボンに土と草がついてますよ」

そう言って汚れを叩いて落としてくれました

ヨハンは彼があまりにみすぼらしいのと、学校へ通っていたころの友達は彼を馬鹿にしていたので、仲良くして同じに見られるのがいやでした

「余計なことはよしてくれ。それくらい自分でできるから」

「ごめんよ。ただ仲良くなりたかったんだ。僕は家族も友達もいないから」

機嫌の悪かったヨハンは「君のこと友達なんて思ってないよ。もうぼくにつきまとわないで」っと厳しく言ってしまいました

彼はとてもさみしそうな目でヨハンを見つめました

ヨハンはいたたまれなくなって急いで事務所へと入っていきました

忙しい仕事をしているあいだは靴みがきの男の子のことも、嫌なこと忘れることができました


仕事がおわって家にかえると、いつになく父親が陽気に鼻歌をならしていました

「今日はどうしたのお父さん機嫌がいいようだね」

「機嫌がいいかだって?そうさたんまりお金が入ったからな」

「お金なんてどこで手に入れたの?お仕事みつかったの」

「あのやぶ医者からぶん取ってやったのさざまあみろ」

「あのお医者さんってお母さんを治療してくれた人のこと?」

「治療だって冗談じゃないやつが俺の妻を殺したんだよ」

ヨハンはあの優しくて親密になって診てくれたお医者さんのことを思いました

でもまた父親の機嫌をそこねると怒られるので黙っていました


それから数日が経って、いつもの駅にいくと、あの親しげな靴みがきの少年の姿が見えませんでした

事務所に入って駅員のおじいちゃんに聞きました

「おはようございます。いつも駅前で靴みがきしている男の子が今日は見えないけど、どうしたんでしょう」

「ああ、あの子のことか。彼が川の橋の下で住んでいたのは知っていたかな?」

「ううん、知らない。あまり話したことなかったから」

なんだか責められている気がして、ヨハンはうつむきながら答えました

「そうか、実は昨晩上流で大雨があってな。どうも水浴びしていたらしくて、突然川の水が増してしまってその子流されてしまったらしい。おまけに、悲鳴を聞いて駆け付けたお医者さん。そうそう、君のお母さんを診たお医者さんじゃよ。彼が助けるために川に飛び込んだが、それっきりふたりはあがってこなかったそうじゃ」

「ふたりはどうなっちゃったの?死んじゃったの?」

「警察がでて夜を徹して探したが遺体は見つからなかったらしいが、もう亡くなっとるじゃろう」

ため息まじりに言いました

「そう…」

ヨハンはあの男の子の悲しそうな目を思い浮かべました

すると胸の真ん中が凍りつてぎゅーっとちぢまって痛くなりました

「どうしてもっと仲良くしてあげられなかったんだろう。ごめんなさい」

なんどもなんども心のなかで謝りました

両目に涙があふれていまにもこぼれそうです

それでもなんとかその日の仕事を終えてお家に帰りました

「ただいま」と力無くいいながら玄関を開けると、見知らぬ女の人がキセルをくわえて座っていました

いつもお酒くさい部屋がタバコの臭いと香水とが混ざりむせかえるようです

「俺の大切なお友達だ。ちゃんと挨拶しろ」と奥にいた父親がにらむように言いました

ヨハンは帽子をぬいで、「こんばんは」と言いながらその女の人をよく見ると、孔雀の彫られた懐中時計を手にしていました

「かえせ、それはお母さんの形見なんだぞ」

「なんだい、まるで私を泥棒あつかいして。ちょっと借りてるだけじゃないの」

ヨハンと女の人は引っ張りあってるうちに、フタが壊れてしまいました

ワーッと叫びながら両手をあげて突っ掛かろうとするヨハンの腕を、父親が捕まえて床へほうりなげました

「お前はなんって疫病神なんだいつも人の幸せをダメにする、もう小僧お前はこの家をでていけ」

ヨハンは何も言わずにドアを開けて出て行きました

「もう二度とこの家に近寄るな」

そう叫ぶ父親の声が外までひびきました

「ああ、もう帰る家も無くなってしまった。これからどうしよう」

ひとまずあの隠れ家へと行くことにしました

書き溜めた絵本を取り出すとゆっくり目を通します

「そうだ、今日は満月だった。あの汽車はほんとうにあらわれるかも知れない。もうこの街にはなんの未練もないのだ。ぜひ行ってみよう」

そう決心して、絵本を胸元からシャツのなかに押し込んで、駅へと向かう近道の、森のある丘から真っすぐ降りていった線路沿いに行くことにしました

レールの下に敷かれた枕木を数えながら踏ん付けて歩いていきます

そらにはまあるいお月様と、星座がたくさん姿を出しています

ヨハンの動くのに合わせてお月様も一緒に移動しているように見えました

線路の両側には歯の抜けたように木々がならんで立っています

一人で線路を歩いていると、家を追い出されいくあても無くなったというのに、ヨハンはなんだか楽しくなってきました

遠くから小さな光りが揺らめいて、だんだんとヨハンのもとへと近づいてくるのがわかりました

「なんだろう。あれが噂の汽車だろうか。」

光りはますます大きくなり、もうヨハンの目の前まで近づいてきました

ブオーっと警笛が木々を揺らしたかと思うと、まばゆい光りにヨハンは照らされ、ぱっと目を閉じました

ふと、身体が軽くなり光りに包まれた感じがいたしました

しずかに目を開けると、ヨハンは車両の椅子に腰掛けていました

「いつの間に汽車に乗ったのだろう。これはひょっとして絵本に描いたことがほんとうになったのかな」

窓の外を眺めると街の光りがずっと下のほうに、夜空の星と同じくぽつぽつと輝いていて、その先には黒曜石で敷き詰められたような海が広がっています

「わあ、ほんとうにそらを飛んでいるんだ。お月様まで運んでくれるんだ」

興奮して叫ぶヨハンの背の後ろからクスクス笑う声が聞こえます

振り返ると隣の席には、さっきまで誰もいなかったのに、いつの間にかあの靴みがきの少年が座っていました

「やあ、君は川で溺れたのでなく無事だったんだね。一緒に乗れてうれしいよ」

「ぼくもうれしい。一緒に旅に出れるなんて思ってなかったし、こうして仲良くお話しできてよかった」

ヨハンは少年を邪険にしたことを思い出して、泣いてあやまりたくなりましたが、靴みがきの少年は全く気にしてないというふうにただヨハンの目をみつめて楽しく笑っていました

その笑顔をみると無言のうちにすべて許してもらっている気持ちになりました

ななめ向かいの席には、あのお医者さんも座っていました

そしてヨハンを見ると安心させるようにやさしく微笑んでいます

「あれを見て。もうあんなにお月様に近づいているよ」

少年の指差した向かいの窓には、収まりきれない金色にかがやくおっきなお月様がありました

もう月面のクレータの様子が映って、地面のでこぼこまではっきりとわかります

「あれなんか月の都市じゃないかな」

白い蟻塚ににた建物が並んで建っている所をヨハンは指して言いました

「あっちなんか、月のラクダに乗って砂漠を歩いているよ」

靴みがきの少年も目ざとく見つけてはしゃいでます

「ほんとうだ。旅人たちが手を振っているようだね。砂漠の一粒一粒がぜんたい砂金で出来ているようだよ。」

「光りのつぶが小さく固まって降り注いだみたいだね」

「ああ、もうじき着くころだ。そしたらきっと、ほんとうの意味がわかるような気がするんだ」

そんな会話をしていたら、とうとう汽車は警笛を鳴らしながら速度を落として、滑るように月のステーションにつきました

外はもう金色の光りのあふれて、眩しくて車内からは何も見えません

「お母さんがきっと迎えに来ているにちがいない」ヨハンは高鳴る気持ちを押さえて、光りの洪水の中へと降りていきました



翌朝は小雨のしとしと降る、けむった朝でした

朝刊には、深夜の貨物列車にひかれた少年のことが載っていました

ですが、少年が絵本をかくのが好きなことも、どんな物語を描き、どんな気持ちだったか何も知られることはありませんでした

駅へ向かう道路にはヨハンのかいた物語の紙が雨にぬれて散らばっていました

その上を何も気づかず大人たちが、綺麗にみがいた革靴で踏み付けて歩いていました


関連記事




ブログランキング に参加しています
下記のリンクをクリックいただけますと、ランキングで上位に表示されるようになり沢山の方に見ていただく機会がふえますので、この日記の記事がよいと思われましたら応援クリックお願いいたします
クリックいただいた方の幸いをお祈りいたします

にほんブログ村 哲学・思想ブログ スピリチュアル・精神世界へ
にほんブログ村


スピリチュアル ブログランキングへ


精神世界ランキン

2 件のコメント:

  1. おはようございます。
    前編、後編
    読ませて頂きました。

    胸が締め付けられるような
    悲しい物語ですね。

    物語ですが
    世界のどこかで
    同じ様な思いをしている子どもたちが
    いるように思います。

    そのような子どもたちが
    みんな幸せになるような世の中に
    なるといいですね。

    返信削除
    返信
    1. ラビさん

      ブログ訪問いただきありがとうございます

      インスピレーションを受けて書いた物語なので
      どこかに似たような出来事があったのかもしれません

      いつか世界中の子供たちが幸せな家庭に生きられるようになるとよいですね

      削除

コメントは管理人の承認後に表示されます